東京地方裁判所 昭和26年(行)50号 判決
原告 福山キヨエ
被告 国
一、主 文
大正十四年四月十六日為された原告の日本国籍離脱の届出及び昭和十六年三月十九日内務大臣がなした、原告の日本国籍回復の許可はいずれも無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は第一次に主文同旨の判決(その記載中大正十六年とあるは昭和十六年の誤記と認められる)、予備的に、「原告が出生による日本国籍を引続き現に有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
「原告は明治四十五年四月二十日アメリカ合衆国カリフオルニア州に於て、日本人福山仙吉、同力子の間に二女として出生し、日米二重国籍を取得したが、右福山仙吉は大正十四年四月十六日原告が十五年未満の時、内務大臣に対し原告の法定代理人として原告の日本国籍離脱の届出をなした結果原告は外形上日本国籍を離脱したこととなり、その旨戸籍に記載された。その後原告は昭和十五年十二月六日内務大臣に対し原告の日本国籍の回復を申請し、内務大臣は昭和十六年三月十九日これを許可したので、原告は旧姓福山を称して原告の一家創立の旨届出をなしその旨戸籍の記載を受けたのである。
然し原告は大正九年一月二十三日、アメリカ合衆国カリフオルニア州の裁判所に於て行為地法による方式に従い日本人ケー沖ことエム高重、沖ウラこと高重ウラ夫妻と養子縁組をなし、大正十五年九月二十七日右と同様に、福山仙吉同力子と養子縁組をしたものであつて、前記離脱届のなされた大正十四年四月十六日当時に於ける原告の法定代理人は福山仙吉ではなく、エム高重であつた。よつて福山仙吉のなした前記の如き原告の日本国籍離脱の届出は、原告にその効力を生ずるものではないから無効であり、原告は日本国籍を離脱したことのないものであり、前記国籍回復の許可は、原告が右離脱の届出により日本国籍を離脱したことを前提とするものであるが、原告は右離脱の届出によつて日本国籍を離脱しないから、日本国籍を有する者に対する日本国籍回復の許可となり、当然無効である。よつて右国籍離脱の届出及び国籍回復許可の無効なることの確認を求め、仮にかかる確認の請求が許されぬとしても、前記の如き理由により原告は現在まで引続き出生による日本国籍を有するものであるからその旨の確認を求める」と述べ、
確認の利益について、「原告の現に有する日本国籍が前記の如く出生に因るものである以上、アメリカ合衆国に於て出生した原告はアメリカ合衆国の国籍を有することとなるので、原告は日本国籍を離脱することができるが、原告の現に有する日本国籍が、前記の国籍回復の許可に因るものとすれば、原告はアメリカ合衆国の法律によりアメリカ合衆国の国籍を喪失することとなり、原告は日本国籍を離脱し得ない結果となる。従つて原告は日本国籍を離脱せんがためにも本訴確認を求める利益がある。又前述の如き国籍の離脱及び回復は、原告の戸籍に記載されて居るが、前述の如く、右離脱の届出も、回復の許可も無効であり、その記載は法律上許されないものであるから、その訂正のためにも本訴確認を求める利益がある。」と述べた。(証拠省略)
被告指定代理人は「原告の訴を却下する。」との判決を求め、
「原告がアメリカ合衆国の国籍を有するや否やは、専らアメリカ合衆国法の決するところであり、又原告が現に有する日本国籍が原告主張の国籍回復の許可によるものでなく、日本人福山仙吉を父として出生したことに因るものであると言う事実の外に、原告がアメリカ合衆国に於て出生したと言う事実が必要であり、原告の求めるが如き判決によつて直ちに原告がアメリカ合衆国の国籍を有することとはならず、従つて原告が日本国籍を離脱し得ることとはならない。原告は予備的請求として、原告が出生による日本国籍を有する旨の確認を求めているが、原告の戸籍簿に記載されて居る前記日本国籍離脱の届出及び回復の許可が何れも無効であるならば、その訂正は確定判決によらねばならず、その判決は主文に於て右日本国籍離脱及び回復が無効であることを宣言するものでなければならず、その無効が理由中で判断せられるにすぎない時は、これを以て戸籍簿の記載を訂正することはできない。而して原告が現に日本国籍を有することは被告もこれを認め、争はない処であるから、原告の本訴は確認の利益を欠き、不適法として却下さるべきである。」と述べ
本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
「原告主張の請求原因事実中、原告が明治四十五年四月二十日アメリカ合衆国カリフオルニア州に於て日本人福山仙吉、同力子の間の二女として出生したこと、大正十四年四月十六日福山仙吉が内務大臣に対し原告の法定代理人として原告の日本国籍離脱の届出をなし、よつて原告が日本国籍を離脱せるものとされていること、昭和十五年十二月六日原告が内務大臣に対し日本国籍回復を申請し、昭和十六年三月十九日内務大臣がこれを許可したこと、以上の事実により原告主張の如き戸籍の各記載のなされたこと、原告が現に日本国籍を有することは認めるがその余は争う。」と述べた。(証拠省略)
三、理 由
まず第一次の請求につき確認の利益の有無を審按するに、「原告の国籍離脱の届出が無効」なる旨の趣旨は、右届出により原告の日本国籍離脱の効力を生ぜず、即ち原告が日本国籍を離脱したものに非ずとの原告の日本国籍上の身分関係の確認を求めるものと認むべく、右身分関係はなお原告の現在の身分関係を形成せるものとゆうべきであつて、単なる過去の一事実に過ぎないものと解すべきでないから、右身分関係の有無は確認訴訟の目的たり得るものといわなければならない。又内務大臣の国籍回復許可は、原告に日本国籍取得の効果を発生せしめる行政処分であり、之により現に原告が日本国籍を取得しているものとせられている以上、右行政処分の有効無効を確認訴訟の目的となし得ることも明らかである。而して原告が日本国籍を離脱したる者に非ず従つて日本国籍を回復取得したものに非ずとすれば、原告は米国の国籍を保有すると共に日本の国籍を離脱し得ることとなること両国の国籍法上明らかである。尤も、原告が右の如き事由あるにせよその米国国籍を保有するや否やは最終的には米国裁判所の決定するところであり、原告訴求の如き判決により直ちに之が確定せられるものでないことはゆうまでもないが、少くとも該判決により米国国籍保有の決定に寄与するところあるべく、原告の日本国籍離脱も亦之に従つて容易となるべきことは看易きところとゆうべく、右判決が原告の国籍の得喪にかくの如く緊切な関係を有する以上、原告はその訴求するが如き確認判決を求める法律上の利益あるものと解すべきものであり、況んや該判決により戸籍訂正の利益を有することも明白であるから、原告はいわゆる確認の利益を有するものとゆうべきである。
よつて進んでその本案について考えるに、原告が明治四十五年四月二十日アメリカ合衆国カリフオルニア州に於て日本人福山仙吉、同力子間の二女として出生したこと、福山仙吉が大正十四年四月十六日原告が十五歳未満のとき、原告の法定代理人として内務大臣に対し原告の日本国籍離脱の届出をなし、よつて原告が日本国籍を離脱したものとせられていること、その後原告が昭和十五年十二月六日内務大臣に対しその日本国籍回復を申請し、内務大臣が昭和十六年三月十九日これを許可し、以上の事実により原告主張の如く各戸籍の記載がなされたことは当事者間に争いがない。而してその成立に争いのない甲第四、五号証及び原告本人尋問の結果を考え併せると、原告は大正九年一月二十三日アメリカ合衆国カリフオルニア州裁判所に於て同地に於ける法定の方式により日本人エム高重、高重ウラと養子縁組をし、大正十五年九月二十七日、右と同様福山仙吉、同力子と養子縁組をした事実が認められる。従つて福山仙吉が原告の日本国籍離脱の届出をした大正十四年四月十六日当時の原告の法定代理人はエム高重であつて福山仙吉でなかつたことは明らかである。よつて原告は仙吉のなした右国籍離脱の届出によつては日本国籍を離脱し之を喪失したものではないとゆうべきであり、従つて内務大臣が昭和十六年三月十九日なした原告の日本国籍回復の許可は、日本国籍を有するものに対してなされたものとなり、当然無効であるといわなければならぬ。而して原告が之等離脱の届出の無効、並に国籍回復許可の無効につき確認の利益を有することは冒頭に記述した通りであるから原告の第一次の請求は正当としてこれを認容すべきものである。
以上判示の通りであるから、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 北村良一 原宸 山田尚)